英国の公的年金は日本とは異なる《一層型年金》(2016年4月~)
英国では、2016年4月に新しい公的年金制度「一層型年金」が導入された。
一層型年金は、所得再分配効果を高めた年金で、被用者(会社員など)の支払う保険料は報酬比例だが、給付は定額(給付の満額が定額)となっている。また、自営業者と被用者(会社員など)が区別されず、同一の年金制度に加入することも特色で、当然、自営業者にも報酬比例部分の保険料納付義務がある。長寿化が進展する中での給付水準維持が目的で、英国では2011年に定年制も廃止された。
英国の公的年金制度
③年度毎に満額給付額が決まる。
④給付額は保険料拠出年数に比例
(現役時代の所得とは無関係、満額給付は35年)
⑤受給資格は保険料拠出10年以上
(10年未満は公的年金なし/公的扶助で救済)
※ 2020年度の満額は週£175.20 だったが、4年間で26%上昇して、2024年度には満額 週 £221.20(年1万1502ポンド)となっている。これは物価上昇を上回るペースだと危惧する声もある。
問題ある記事の問題点が明確に
公的年金に関する問題ある記事(PRESIDENT Online)
おかしな論調だと思ったが、英国では2016年に年金改革があり、日本とは違う「一層型の年金制度」となっていること知り、その理由が分かった。英国では、2016年4月6日以降の受給権者からは、年度毎に示される「給付満額」を加入年数に比例した形で受け取る定額年金(満額が定額であることに注意)となっており、基礎年金も報酬比例部分もなくなった。
一層型の定額年金制度での支給額と2層型年金制度の1階部分である日本の基礎年金を単純に比較したことが記事の誤りの元凶で、英国の新制度が自営業者と被用者を区別しないことも、ライターの誤解を助けたのだろう。互いに該当する項目のない制度の比較は、本来、無理で、前提条件を明確にしない国別比較も乱暴な論理だ。この意味から、この記事は依然として、若者たちを惑わせるミスリーディングな記事といえる。
英国の公的年金は「国民保険」の根幹部分(9割以上) となっている
英国には国民保険(1911年、国民保険法)という、年金・失業・労働災害係る給付を総合的・一元的に取り扱う制度があり、公的年金はその根幹をなしている。国民保険の給付総額に対する公的年金の割合は9割以上だが、日本のように公的年金のみの保険料ではないことに注意して保険料率を参照してほしい。なお、英国に介護保険制度はなく、介護は原則自己負担だ。
英国の国民保険
⑴
(年収換算)£9,543(177万円)以上に12% + £50,161(928万円)超に2%追加
例1)年収400万円(£21,622)⇒年£2,595(48万円)
例2)年収700万円(£37,838)⇒年£4,541(84万円)
例3)年収1,200万円(£64,865)⇒7,784+29=年£7813(145万円)
<雇用者負担*>
例1*)年収400万円(£21,622)⇒年£1,665(31万円)
例2*)年収700万円(£37,838)⇒年£3,773(70万円)
例3*)年収1,200万円(£64,865)⇒年£7,287(135万)
⑵
保険料は定額で 週£3.05(年£159=29,415円)
⑶
年間純利益£9,501~£50,000に9 %,£50,000(925万円)超は2 %追加
例4)年利益700万円(£37,838)⇒年£2,550(47万円)
例5)年利益1,200万円(£64,865)⇒年£5,280(98万)
⑷
日本の年金制度では、年収400万円の被用者の場合、雇用者負担と合わせて年73万円の保険料を、年収700万円の被用者の場合には年128万円の保険料を支払っている。英国の国民保険での保険料は各々79万/154万円なので、保険料は日本より高めと言える。給付額をみると、日本の年収400万円の被用者は月16万6000円、年収700万円の被用者は月20万8000円となるので、一層型年金の英国(満額で月17万7000円
英国の自営業者は、年収700万円の場合は47万円、年収1,200万円なら98万円の国民保険料を支払っており、年収1,200万の自営業者よりも年収700万円の被用者(会社員)の保険料の方が高額となっている。日本の自営業者の場合、年21万円の国民年金保険料で月6万93000円の国民年金を受け取っているわけで、保険料の支払いは、純利益年700万円の自営業者で年間26万円、同年1,200万円の自営業者で77万円少ない。受給額では月11万円少ないが、年26万円~77万円の余剰資金を35年間にわたって運用できることに注目すべきだ。
(付)英国では、年収120万円以下なら保険料の納付義務はない。この場合、公的年金の受給資格も得られないが、年収120万円から176万円の場合には、年2万9千円の保険料を納付すれば公的年金の資格が得られる。最低所得以下の場合でも、年14万円の第3種保険料を支払えば、公的年金の資格が得られるが、年金を受給するには最低10年間保険料を支払う必要がある。⇒ 低所得(年収120万円~176万円)でも年2万9千円の保険料を35年間納付し続ければ、あるいは、最低所得でも490万円を35年間にわたり第3種保険料に廻すことができれば、65歳から満額の年金が得られることになるが、これは裏技か…
年金制度を正しく学ぼう
「年金が少なかった」との不満については前項までで明確に説明した。肉親である神主の場合は自営業者で、国民年金法による受給に当たっては、制度上、報酬比例部分は一切なく、個人年金を積んでいない場合に支給額が月6万93000円程度になるのは致し方ない。英国での「月額約18万4000円」
英国の年金制度(2015年末時点)<日本国厚生労働省>
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-england.pdf
英国の社会保障(「2016年海外情勢」第4節)<同> https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/17/dl/t3-08.pdf
UK2021 https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/UK2021.pdf
英国国民保険制度と制度を取り巻く状況 https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/rr_r04_09.pdf(2022.10)
英国国民保険制度と制度を取り巻く状況(第2版) https://cis.ier.hit-u.ac.jp/Japanese/dp698.pdf(2022.12)