ニューヨーク市の新しい歩行者横断ガイドライン
2024年10月31日にNHK-BS「ワールドニュース」で放送されたアメリカPBS(Public Broadcasting Service)のニュースで、歩行者が自由に道路を横断することを認める法案が先週末ニューヨーク市議会で可決されたと報じていた。これに関して、信号無視で違反切符を切られる人の大多数(77%とも90%以上ともいう)が、黒人とラテン系の歩行者で、このような信号無視の取り締まりは、交通や公共の安全を守るためというより、人種差別に起因する偏った取り締まりであるとの考えが米国の様々なニュースサイトで紹介されている。一方、道路における歩行者の根源的権利を主張する意見もあり、この考えでは100年前の道路と人間の関係を取り戻すべきという認識となる。ニューヨーク市警(NYPD)は毎年数百枚の信号無視切符を切っているというが、これが多いのか、日本ではどうなのか、少し調べてみた。なお、法案概要を本稿の最後に収録したが、この法案は、いわゆる Jaywalking の合法化で、道路のあらゆる場所での信号を無視した横断を合法化する驚くべきものだ。

日本での道路横断の取り扱い
日本では、信号無視は違法だが、「横断禁止」となっている場所(横断禁止の標識がある場所)以外の横断は違法ではなく、罰則もない。「横断禁止」と指定された道路では、2万円以下の罰金または科料となることがあるとされているが、実際にどのくらいの歩行者が罰金などを科されたのか、警察庁交通局の統計や法務省の犯罪白書・道交違反で探してみたが、歩行者の違法横断についての取り締まり実数は(少なすぎるのか)公表されていないようだ。ただ、マスコミに対する次項のような意見表明がみられ、米国同様、道路横断というだけで違法と非難することは間違いだと指摘している。日本での意見は、車社会と歩行者の権利という観点からのもので、人種問題が絡むものではないが、取り締まり圧力に対しては一定の抑止力になっているように思う。
クルマ社会を問い直す会(歩行者の権利の主張)
日本では「クルマ社会を問い直す会」が2023年7月18日に報道機関宛に「横断歩道のない場所を横断する歩行者を非難する報道について、再考を求める意見」を送付している。これは「横断禁止でない場所(横断禁止の標識のない場所)」での横断について、法規と異なる報道を行っている」という意見で、車社会における歩行者の権利の主張として妥当なものだ。米国でも、「横断禁止の取り締まりは時代遅れで、過剰取り締まりの口実になる」との非難があるが、ストレートに人種差別に結び付けるのはどうかと思う。ただ、このような流れ(歩行者の横断する権利)は、他の事象でも見られたように、遅かれ早かれ日本全土に及んでくると想像されるため、歩行者保護を目的とした道路環境の整備(各種センサー設置)や自動車側の能力向上(自動運転、道路センサーとの一体化)を急ぐ必要があろう。
ニューヨーク市議会公式サイトから
New York City Council Legislationに、Oct 26 2024, enacted として「Pedestrian crossing guidelines and right of way.」が公表されている。内容は以下の通りで、一部解説を加えておく。
On agenda: 2/28/2024
Enactment date: 10/26/2024 Law number: 2024/098
Title: A Local Law to amend the administrative code of the city of New York, in relation to pedestrian crossing guidelines and right of way
This bill would permit pedestrians to legally cross a roadway at any point, including outside of a marked or unmarked crosswalk, and allow for crossing against traffic signals. It would legalize the activity commonly referred to as “jaywalking” and specify that crossing against a traffic signal or crossing at any point outside of a crosswalk will not be a violation of the administrative code and therefore can no longer be the subject of a summons. The bill would also require the Department of Transportation to conduct an education effort regarding the rights and responsibilities of pedestrians and of operators of motor vehicles, bicycles, and other mobility devices on city roadways.
歩行者横断ガイドラインおよび歩行者の通行権
横断歩道であろうとなかろうと、歩行者はあらゆる地点で合法的に道路を横断することができ(legally cross a roadway at any point)、“jaywalking” と呼ばれる行為を合法とし、信号を無視して、どこを横断しても違法ではないとする(the activity commonly referred to as “jaywalking” and specify that crossing against a traffic signal or crossing at any point outside of a crosswalk will not be a violation of the administrative code)と記載されている。驚きだ。